SISIFILLE(シシフィーユ)立ち上げ時にアドバイザーとしてチームに参加してくださった、ライフスタイルコーディネーターで「YORK. (ヨーク)」代表の山藤陽子さんと、「山藤さんの独創的な視点にいつも魅了されていた」という当時企画を担当していたcumi(現ブランドコミュニケーター)。
ローンチから7年が経ち、久しぶりに顔をあわせたふたりが当時の、そして今の想いを語り合いました。
SISIFILLEとは…
わたしたち「SISIFILLE(シシフィーユ)」はオーガニックコットンを世界各地の産地から直接仕入れており、どこの畑でどのように育ったか明らかなコットンのみをつかって、アンダーウェアや生理用ナプキンなどをつくっています。オーガニックコットンの「やわらかさ」は、単なる触感超えた、人々が必要とする新しい価値であると、私たちは考えています。
このインタビューでは、オーガニックコットンと同じように「やわらかい」、人やものの関係、生き方をを実践する方々にその思いを伺います。
―そういえばオーガニックのナプキンって日本にないな、
ほしいなと思っていた(山藤)
cumi:シシフィーユが誕生した2015年は、ちょうど南青山のサロン「HEIGHTS(ハイツ)」の立ち上げとも重なっていたんですよね。
山藤:そうでしたね。ハイツを始める前、オーガニックセレクトショップのディレクションを任せていただいていて、海外にバイイングに行く中でそういえばオーガニックのナプキンって日本にないな、ほしいなって思っていたんです。
cumi:最近でこそ日本でも浸透し始めましたけれど、当時国内生産の製品としてはなくて。
山藤:そうそう。なので、輸入できないかなって考えていたところに、オーガニックコットンを使ったナプキンをこれからつくるんだっていうお話を聞いたんです。それでアドバイザーとしてのポジションでお声がけいただいたのが始まりでした。
cumi:私はキャリアの大半をアパレル業界で過ごしてきて、洋服以外のカテゴリー、しかも生理用ナプキンでブランドを立ち上げることになるなんて思ってもいなかったんです。生理事情は人それぞれだし、チームに女性が私ひとりだったこともあって、山藤さんとあれこれ意見を交わして、共感し合いながら進めていける環境があったことはとても心強くて。あのときの話し合いが、シシフィーユを進むべき方向に導いてくれたなと思っています。
山藤:「私たちは女の子だから、生理のときぐらいは自分をいたわる気持ちを持ちたいね」という想いがブランドの軸となって、ブランド名、ロゴ、色も全部一緒に決めて。デザインも、下着みたいにお店で飾っていても遜色ないものにしたいねっていうことで、ああいう形に行き着いついた。試行錯誤を重ねて、世の中に出せたことは本当に良かったよね。シシフィーユのナプキンは私にとって、今の仕事につながる第一作目といえる存在なんです。
―「感覚の偏り」をどう表現するのか、ということをずっと考えているんです(山藤)
― 山藤さんは、飛び抜けて偏っているからこそ伝わりやすい(cumi)
cumi:私、山藤さんに教えていただいたことで、すごく印象に残っていることがあって。化粧水をつける前の「拭き取り習慣」のことなんですが、化粧水を染み込ませたコットンで顔やデコルテ、最後は耳の裏や手のひらまでも拭き取るとおっしゃっていて。いざやってみたらとても気持ちが良くて、1日の始まりや終わりの心の切り替えに最適だし、何より自分をいたわっているっていうことが実感できてすごく感動したんです。
山藤:何も特別なことをしているわけじゃなくて、あたりまえのことなんですけれどね。肌は古い角質がたまらないように、拭いてやわらかくしておくとどんどん栄養も入ってくるけど、かたいと入っていかないの。「心も体もやわらかく」とよく言っているんだけれど、肌と一緒で心と体もやわらかくないと新しい情報が入ってこないし、人の話も聞くことができないんです。
cumi:その「拭き取り習慣」の話を聞いて、まさに山藤さんが発信されていることってそこに集約されているような気がしました。かゆいところに手が届くというか、本当にささいなところの感性を刺激してくれるような。
山藤:結局自分を気持ちよくさせてあげられないと人にもやさしくできないし、仕事のパフォーマンスもあがらないと思っていて。私は、「気持ちいいことフェチのライフスタイルコーディネーター」という肩書きを持って、とにかく気持ちいいことに偏るっていうことだけに集中してきた。あたりまえな、すごくベーシックなものを人と違った視点で紹介したい、人をハッとさせたい、というのが私自身の人生のテーマのひとつでもあるんですよ。だからその「感覚の偏り」をどう表現するのか、ということをずっと考えているんです。
cumi:山藤さんは、飛び抜けて偏っているからこそ伝わりやすいんだと思います。話していると、実はとても大切であったこと、必要であったこと、忙しい日々の中でこぼれ落ちてしまっていたことに気づかせてもらえるような感覚があるんですよね。
―パンデミックを経験して、ものを“買わない”のではなく、“選べる”ようになってきた(山藤)
ーみんなそれぞれ自分の中にある感覚の部分を信じるようになってきているのかな
(cumi)
cumi:気持ちいいいことフェチ、偏愛とかって、7年前にも山藤さんが語られていたなと強く印象に残っています。今となってはそういう言葉を見聞きするようになりましたが、当時はそうではなかったですよね。そう考えると、やっと時代が追いついてきたんだなと感じます。
山藤:そうなんですよね。今でこそコマーシャルのキャッチコピーとかで「気持ちいい」みたいな言葉が出てくる時代ですけれど、当時は気持ちいいっていう感覚でものを選ぶっていうことがなかったんですね。今は「ものを買わない時代」なんて言われたりするけれど、自分にとって価値があって必要なものはみなさん買われている。だから“買わない”のではなく、“選べる”ようになってきたのだろうと思っています。パンデミックを経験したことで、みなさん時間の余裕ができて、自分に向き合う時間が増えたから、もの選びに対する感覚も変わってきたんじゃないかな。
cumi:日本は、みんなと同じものをほしがる傾向がありますよね。だけど、「こう思っているのは自分だけなのかも?」 っていう、みんなそれぞれ自分の中にある感覚の部分を少しずつ信じるようになってきているのかなって思います。
山藤:そうだね。そこはシシフィーユの「自分を大事にする」っていうブランドコンセプトとも通じると思っていて。もちろんトレンドみたいなものはあるけど、ただ上質だから買うとかそういうもの選びではなくて、自分への投資の仕方っていうのが成熟してきたのかな。そういう意味ではパンデミックがもたらした良い側面と言えるのかもしれないね。
―「偏るけれど、こだわらない」。こだわらないけれど、気持ちいいっていう感覚にはとことん偏っていっていきたい(山藤)
cumi:今日話を聞いていて、やっぱり山藤さんはブレないなと思いました。7年前からずっと変わらずに自分の感性を信じているじゃないですか。どこの枠にもあてはまらない、そのするどい感性の源はどこにあるんですか?
山藤:子どもの頃からわりと真面目で人に迷惑をかけないように普通に育ってきたんですけれど(笑)。でも普通の会社員だった私がフリーランスになって、その当時は決められた肩書きもなかったから、それだったら一層「◯◯の人ね」って言われないようにしようっていう気持ちはありました。そもそも枠にはめられる要素もなかったから、それだったら何にもカテゴライズされずに、ただただ自分の感性を信じて、気持ちいいことに偏っていこうと決めて。
cumi:いい子でいた反動みたいなものはあったんですか?
山藤:それは全然ないんです。型にはまっていたときがあるからこそ、逆にその良さが分かっているので。反骨精神があるっていうわけじゃないんだよね。あたりまえの肩書きであたりまえのことをするのはつまらないなって、ちょっとへそまがりなんです(笑)。
cumi:枠にとらわれないっていう、ものの選び方にもその考えが反映されていますよね。
山藤:いつも言っているのは「偏るけれど、こだわらない」。日本製じゃないと、とか、オーガニックじゃないとってこだわった時点で枠にはまっちゃいますよね。そういうカテゴライズされた情報をとっぱらって気持ちいいなって感じるものは、結果地球にも気持ちいいものだったりするんですよ。だからこだわることはしないけれど、気持ちいいっていう感覚にはとことん偏っていって、自分をとりまく日常は、できる限り自分にとって気持ちいいものにしたいと思っているんです。
cumi:パンデミックで自宅にいる時間が長くなって、生活をより気持ちいいものにしたいと思う人が増えましたよね。「香り」が心地よさの大事な要素のひとつという意味では、今年、山藤さんがスタートしたパフュームブランド「SCENT OF YORK. (セントオブ ヨーク)」にもつながりますね。
山藤:そうなんです。天然の精油だけでパフュームをつくりたいという構想は長年あったんですが、今年ようやく形になりました。日々気持ちいいと感じる感覚を、インスピレーションとして調香しています。素材が完全に植物由来なので、香る範囲は少ないし、香りが持続する時間も長くないんです。でも、そもそも長く香らないといけないっていうことはないと私は思っていて。香水だからこうってカテゴライズしないで、違う概念の香水があってもいいじゃない。好きな香りを纏って深呼吸することで、自分自身の声に耳を傾けるきっかけになったらいいなと思っています。そこもシシフィーユに通じる部分があるよね。
cumi:そうですね。今年リニューアルしたシシフィーユのコンセプトを「やわらかなプロダクトとやわらかなコミュニティで、世界をやわらかくする」と壮大に掲げたんですが、オーガニックコットン自体がただやわらかくて気持ちいいものという側面だけじゃなくて、人の心をも動かす可能性があると考えているんです。ひとりひとりがやわらかくなれば、もっと人間関係も穏やかになり、やがて世界もやわらかくなっていくんじゃないかなと。
山藤:私にとって気持ちいいとやわらかいはイコールなもの。私はものに対して気持ちいいことに偏ってきたけれど、最近はそれにプラス、人間関係も同じだなと感じていて。家庭もそうだし、お仕事もそうですが、どんな時代になっても全ては人と人。自分を気持ちよくさせてあげることで、人にもやさしくなれるのだと思う。だからものにも人に対しても、「気持ちいい」に偏り続けていったら、その先にはやわらかな世界があるのかもしれません。
■ 山藤陽子 YORK.代表 / ライフスタイルコーディネーター / パフューマー
■ cumi / SISIFILLEブランドコミュニケーター
幼少期をインドネシアで過ごし、大学卒業後はアパレルで販売やPRなどに従事。2015年自身の体験をいかし、オーガニックコットンブランド「SISIFILLE」の立ち上げを担う。現在はサンフランシスコベイエリアを拠点に、シシフィーユWebサイト内のリーディングコンテンツ企画やSNS、製品企画に携わる。
Photo : Akira Yamada
Text&Edit : Nao Katagiri
Interview&Direction:cumi