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マグカップで育まれるつながり ーコミュニティーを生み出すハンドメイドの力ー rieさん

サンフランシスコ・ベイエリアでパートナーのジェイさんと共に陶芸アトリエ「DION CERAMICS」を営むリエさん。2011年に前進となるマグブランド「Atelier Dion」が生まれてから、制作にかかる全てのプロセスを自分たちの手で行っています。シンプルながら温もりのあるマグ(マグカップ)は、地域のいくつものレストランやコーヒーショップで使われ、ローカルの人々を中心に愛されてきました。「マグこそが私たちのコミュニティー」と語るリエさんの言葉通り、ふたりの生み出す作品がハブとなって人と人がつながり、コミュニティーとして豊かに育まれてきました。「ずっと自分が心地良いと感じる場所を探して動いてきた」というリエさんが今に辿り着くまでの軌跡とは。
私は、愛媛県伊予市で生まれ育ちました。海と山が近い、今住んでいるベイエリアにも似た雰囲気のある場所です。私の陶芸の原点は、愛媛の砥部焼にあります。実家で使われていた食器は、母が砥部焼の陶器市で買ってきたものでした。うちは、お客さん用と日常使い用の食器が分かれていたのですが、子どもの頃はそれがすごく不思議だったんです。母と陶器市に行くとB級品の器が売られていて「これはここに傷が入っているから安いのよ」なんて教えてくれて。一方、お客さん用として大事にされている器は作家ものだということが分かり、同じ食器でもこんなに違いが生まれるんだというのが面白くて、自然と陶芸に興味を持つようになりました。大学生の時に「アメリカで陶芸をやりたい」と両親を説得し、日本の大学を中退して渡米しました。カリフォルニア州オレンジカウンティーにある大学の陶芸科に入り、卒業後はCalifornia College of Art(以下CCA)の大学院へ進学しました。作ることが中心だった大学の授業に比べて、CCAはもっとコンセプチュアル。手先が器用だったこともありそれまでトントン拍子できた私でしたが、ここに来て自分が無知だということに気づかされることになります。そこからは、陶芸のコンセプトやフィロソフィー、セオリーを学びながら、ひたすら思考を突き詰める作業を繰り返しました。CCAで過ごした時間は、人生で一番挫折し、一番勉強し、そして一番学校というものを好きになることができたひととき。この時期にとことん陶芸と自分自身を追求したことが、後に大きな糧となりました。
(写真)パートナーのジェイさんと共にアトリエで作業をするリエさん
(写真)型から抜いた制作過程にあるマグ。型と、型をとるための型も2人のハンドメイド。

サードウェーブコーヒーと地産地消の波に乗って。地域で愛される存在になったマグ

CCAを卒業した2010年のアメリカは経済の見通しが悪く、就職氷河期の真っ只中。アートの分野での就職は特に厳しいものでした。ですが、まだ若かったこともあって楽観的で、アートセンターで陶芸の講師をしたりレストランで働いたりしながら、CCAの同級生だったパートナーのジェイと自宅アパートメントのガレージを拠点に創作活動を続けていました。そのうちにCCA時代の教授が陶器制作の仕事を紹介してくれるようになり、そこからさらにつながりが生まれて仕事の依頼が少しずつ増えていったんです。今でこそ陶芸家が自分でオンラインショップなどを営んでスモールビジネスを手掛ける人も多いですが、当時はほとんどいませんでした。むしろ陶芸をやっている人自体がとても少なくて。だからこそ、カスタムやファブリケーションの仕事をいただくことができたんです。

時期を同じくして、ベイエリアではサードウェーブコーヒーや地産地消など、飲食文化を中心に新しい波が盛り上がり始めた頃でした。現在のベイエリアではローカルのものを愛し、ローカルで生まれるものをみんなで応援していこうという考え方が当たり前のように根付いていますが、当時はまだそういう空気感はありませんでした。次第に、レストランやカフェで使用される食器も地元の陶芸家のものを起用しようという動きが出てきて、サードウェーブの先駆けだった「Four Barrel Coffee」や「Sightglass Coffee」のマグカップやソーサーを手がけていた私たちは、意図せずともその波に乗ることとなりました。たくさんの地域の飲食店やセレクトショップなどで取り扱っていただくようになり、自然な流れでマグブランド「Atelier Dion」が誕生しました。これまでずっと地域で人とつながり、顔が分かる人たちと仕事をしてこられているのは本当にありがたい事だなとつくづく感じています。

手作りのものが持つ力を借りてコミュニティーを作っていきたい

私たちの作品はシンプルに見えてものすごく手間と時間がかかります。ジェイと私の2人だけでブランドを運営しているため、子どもが生まれてからはだんだんと子育てと制作活動を両立する事の難しさを感じるようになっていきました。そのため体制を変えようと「Atelier Dion」を一旦お休みし、カリフォルニアの陶器ブランド「HEATH CERAMICS」で働きはじめました。それから3年半が経った去年、子どもたちが大きくなってきたこともあり、自分のブランドをまたしっかりやりたいと思うようになり、退社しました。運が良いいことに、今の自宅の大家さんが地下で陶芸がしたいという私たちのお願いを快く受け入れてくださり、子育てと制作、両方が無理なくできる環境を整えることができました。そしてAtelier Dion改め、これからは「DION CERAMICS」という屋号で本格的に再始動します。
どんなに日々が忙しくてもジェイと決めているのは、マグの制作は絶対に続けるということ。なぜなら、マグこそが私たちのコミュニティーで、そのコミュニティに助けられたことで今の私たちが在るからです。だから絶対に失くしたくない。その思いを確かなものにした出来事がありました。私たち家族は数年LAに住んでいた期間があり、2年程前に再びベイエリアに戻って来たのですが、なんと引っ越しの翌日に全ての物が入っていたトラックが盗まれてしまったんです。当然、家の中は空っぽ。ありがたいことに友人を始めたくさんの人たちがすぐに必要な物資を届けてくれたり、ドネーション型のクラウドファンディングを通じて支援してくれたり、コミュニティーからの大きなサポートを受けました。

ただ生活をすることはできたのですが、家の中から手作りの物は一切なくなったまま。すると、家の中に人の気配がなくなっていることに気がつきました。でも、友人が作った食器や絵を持ってきてくれるたびに「この人もいるし、この人もいる」というように物がリマインダーになってくれて人の存在を感じ取ることができたんです。手作りのものが増えるごとに、家がどんどん“家(ホーム)”になっていく感覚がありました。手作りのものが持つパワーって本当にすごいんです。

今いる環境に寄り添うように、素直に生きていく

私とジェイが大事にしているのは、自分たちがいる環境に沿った正直な陶芸をすること。たとえば、私たちの陶芸は火を使いません。電気釜でも見た目も使い勝手も良いものを作ることはできるし、街に住む私たちの陶芸はこういうものだよっていうことを作品に反映させたいから。もし私たちが違う土地へ行けば自然とスタイルは変わると思いますし、常にその時の自分たちの等身大でいたいんです。大人げがないかもしれませんが、私は自分自身が心地良くいられないと人に優しくすることができません。だから、自分が無理せず自然体でいられるような環境に身を置くことをとても大事にしています。そのために、ずっと心地良い場所を探して動いてきたのだと思います。

私はマグが好きです。誰かの日常生活に入り込んで、日々触れられ、味や時間を感じられるものだから。私たちにとってDION CERAMICSのプロダクトは、お客さんやその先にいる人たちとのとのコンタクトポイントであり、人と人とをつないでくれるものです。そのつながりが生み出す縁や絆をすごく信じているし、それをエネルギーに代えてコミュニティーを育んでいきたいと思っているんです。

■  rie セラミックアーティスト・DION CERAMICS主宰

愛媛県出身。2001年に渡米し、大学・大学院で陶芸を専攻。その後大学院で同級生だったパートナーjayと共にセラミックブランド「DION CERAMICS」を始める。サンフランシスコベイエリアのカフェやレストランからの要望を受けてスタートしたマグカップがブランドの原点でありシグネチャーアイテム。常に等身大であることを大切に、現在はUrban Potteryをテーマにマグでつながるコミュニティーを育みながら活動中。
instagram: @dion_ceramics
HP:DION CERAMICS公式サイト

Photo : Pai Miyuki Hirai(No.1,3,4,6-8)/ From rie(No.2,5)
Text&Edit : Nao Katagiri
Interview:cumi

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