千葉県いすみ市でパーマカルチャーや非暴力コミュニケーション(NVC)、禅などのキーワードを通じて、本質的に豊かな暮らしを実現させるための活動を行っているソーヤー海さん。2016年には「パーマカルチャーと平和道場」として、自然とつながり、自分の手で暮らしをつくるための学びの場を立ち上げました。パーマカルチャーが実現された先には、どんな世界が待っているのでしょうか。後編では、ソーヤー海さんにパーマカルチャーの考えに基づいたハッピーな暮らしのつくり方について聞きました。
―クリエイティブで自由な暮らしを手に入れよう
「楽しい、美味しい、美しい、自分らしい」― これは、活動仲間のフィルとカイルが、パーマカルチャーの原則をシンプルに表したものだ。この4つのキーワードを暮らしの中に取り入れるために、どんな暮らしをデザインしていこうか? そう考えただけで僕はワクワクしてくる。千葉県いすみ市で僕が主宰している「パーマカルチャーと平和道場」は、その実験と実践の場だ。この場所で家族と暮らしながら、日々トライアンドエラーを繰り返している。僕が道場で最初にみんなに教えたいのは、「食べ物を作ること、家を作ること、いい人間関係を作ること」。まずはその3つができれば、安心して自由に暮らすことができる。だって、それより大事なものはないでしょう?
―食べものを作る
コスタリカのジャングルで生活をした体験を通して、いつか自分でも食べ物がそこら中になっているような楽園を作りたいと思い描いていた。食べ物はお店で買うものじゃなくて地球の恵みだということを子どもたちにも教えてあげられるしね。そして、当初荒地のようだったこの場所に、今ではパパイヤ、アボカド、レモングラス 、バナナなどが実っている。だけど、僕が目指しているのは100%自給することではない。大事なのは、どうやったら楽しく持続できるかということ。だから「地球って楽しいな!」とワクワクするようなセンスオブワンダーを散りばめたいと考えている。例えば、キッチンのすぐ側にハーブガーデンを作り、バジル、ミント、ニラ、山椒などを育てて、料理中に使いたいものがすぐに手に入るデザインにした。でも効率がいいだけじゃつまらないから、心が喜ぶような花を合間に植えている。人は生産性と効率化を追い求めても幸せにはなれない。だけど、そうやって小さなワクワクを増やしながら続けていくことができれば、いつのまにか循環する暮らしが無理なく実現していくと思うんだ。
(写真)上はバナナの木。下はキッチン横のハーブガーデン。
―家を作る
コロナ禍で時間があるからやってみようと思い立って、家族が暮らすための小屋を作った。かかった金額は、40万円弱。現代の暮らしでは、人は大金を出して家を買うけれど、その他の動物はみんな自分で家を作っているよね。人間だって、誰でも自分で家を建てることができるんだ。一回やってみると構造が分かるし、自信がつくから楽しくなって他にも作ってみたくなる。道具の使い方を覚えて、意識をそこに向けることができれば何だって手作りできるようになっていく。暮らしの技術を学ぶことで、お金に依存せず自由に暮らすことが可能になるんだ。失敗したっていいからまずは一歩踏み出してみよう。
(写真)上の小屋が海さんとパートナーの美紗子さんが初めてセルフビルドしたもの。下はワークショップで20人以上の参加者が建てた小屋。
―人間をデザインする
僕たちは、一年中外でご飯を食べている。料理を作るのも外だ。そしてアウトドアキッチンには意外な利点がある。室内できれいなキッチンを保つのってすごくエネルギーがかかるよね。ここにはいろんな人が泊まりにくるし、求める清潔さの度合いは人によって違うから、それが時に対立の火種になってしまうことがある。だけど、アウトドアキッチンは動物が来たり、ダストが飛んできたりするから、そもそもきれいに保つことは難しい。そうすると「仕方ないね」ってみんなが納得して対立が起きにくくなるんだ。求める基準値を下げるだけで、グッとみんなのストレスが少なくなる。価値観があわない人を排除するのではなく、どうやったらみんなが心地よく過ごしていけるかを考えること。これが人間関係をデザインするということなんだ。
(写真)手作りの薪ストーブで料理をする美紗子さん
―循環を暮らしに取り入れる
循環しない暮らしには、マイナスの要素が増えていくものだ。例えば、ゴミ。人間以外の動物はゴミを出さないでしょう。自然界にゴミが存在しないのは、全てのものが自然の一部としてサイクルしているからだ。そういう生態系を理解して暮らしに取り入れることができれば、マイナスの要素をプラスに変えることができるようになる。生ゴミはコンポストで堆肥になり、その堆肥を使って作物を育てることができるし、地域で伐採された木や竹、廃材を使って調理した後、炭を使って土壌改良をすることもできる。また、太陽光を使ったソーラーオーブンで調理するとか、身の回りにある資源を使って自らエネルギーを生み出すことができれば、消費を減らすことだってできる。そうやって小さな循環が巡りはじめたら、暮らしは安心感に満たされて、どんどん豊かになっていく。そして、自分自身のパワーを感じるようになる。
―重要機能をバックアップする
パーマカルチャーには重要機能のバックアップという原則がある。何かあったときのために、生活に必要なものの予備を確保しておくということだ。雨水タンクはそのひとつ。天からの恵である雨水を溜めておけば、生活に必要な水を自給することができる。雨水タンクには、ファーストフレッシュフィルターをつけていて、埃や花粉など屋根の汚れがついた最初の汚い雨水をカットしてくれる仕組みになっている。消費生活では全てがブラックボックス化していて、自分の命のベースになっているインフラや食べ物がどういう仕組みで成り立っているのか分からない。だから何かトラブルが起きたら、専門家にお金を払って解決するしかない。生活コストが上がり、お金はもっと必要になる。これが消費者の残念なところだよね。誰も目で見てなんとなく理解して再現ができたり、何か起これば問題が特定できて解決ができたり、そういうシンプルで機能的なシステムがパーマカルチャーなんだ。自分の目の前で、自分が責任をもてるレベルの豊かな循環をつくりたいよね。
―地球の恵みとつながりながら生きていく
意識が暮らしを変え、暮らしが意識を変える。意識と暮らしはセットで、どちらかだけを変えることはできない。僕たちはみんな自然の一部で、全てはつながっているシステムだと考えるのがパーマカルチャーだ。だからひとつ変えると全部が変わっていく。まずは、自然と自然の神秘を自分の暮らしに合うように少しずつ取り入れてみよう。この“少しずつ”というのが大事なんだ。やっているうちに、だんだんと自然の方から「あれやってみなよ、これもやってみなよ」って誘導してくれるようになる。そうすると自然と豊かな世界ができてくる。ドアを開けて目の前がコンビニだったら、お金がないと生きていけないでしょう。でも僕の世界では、ドアを開けると森なんだよ。だから「地球で生きている!」って感じなの。自然も人間もみんながお互いを生かし合って、地球で生きているんだ。井戸水や天水を飲む。そこにあるフルーツを食べる。そして、僕たちの命は、森に、地球に支えられているということが分かる。そうして僕らはハッピーになっていくんだ。
■ ソーヤー海 / 共生革命家
東京アーバンパーマカルチャー創始者。1983年東京生まれ、新潟、ハワイ、大阪、カリフォルニア育ち。カリフォルニア州立大学サンタクルーズ校で心理学専攻、有機農法を実践的に学ぶ。2004年よりサステナビリティーの研究と活動を始め、同大学で「持続可能な生活の教育法」のコースを主催、講師を務める。元東京大学大学院生。国内外でパーマカルチャー、非暴力コミュニケーション、禅/マインドフルネス、ギフトエコノミーなど、さまざまな活動を行っている。いすみ市に「パーマカルチャーと平和道場」を立ち上げ、共生社会のための実験やトレーニングの場として展開している。二児の父。。。。著書 『Urban Permaculture Guide 都会からはじまる新しい生き方のデザイン』、『みんなのちきゅうカタログ』(英語版 Our Earth Our Home)
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HP:東京アーバンパーマカルチャー
パーマカルチャーと平和道場
Text&Edit : Nao Katagiri
Interview:cumi