妹の肌荒れがきっかけとなり、高校生の時から肌にやさしいコスメ作りをはじめたという環境活動家の露木しいなさん。昨年には、人と地球に優しいオーガニックコスメブランド『SHIINA organic(シイナ・オーガニック)』を立ち上げ、日本初の国際基準コスモスオーガニック認証を取得したリップをリリースしました。原材料の調達から、使い終わった後まで、すべての工程に配慮されたリップには、環境活動家としての露木さんの想いが込められていました。
―幼少期の自然体験が「環境活動家」としての原点に
「環境活動家」としての私の原点は、幼少期の体験にあります。横浜の都会に生まれ育ったのですが、通っていた幼稚園は「トトロ幼稚舎」という野外活動が中心の園でした。日々自然の中に身を置くことで、私はとても自然が好きになりました。遊具のように決まった遊び方をするのではなく、自然の中で自由に遊びを創り出すことがとにかく楽しかったんです。(写真)幼少期を過ごしたトトロ幼稚舎。お鍋のふたをまな板にして料理中
大好きな自然が失われつつあると知ったのは、私が高校の3年間を過ごしたグリーンスクールに入ってからです。インドネシアのバリ島にあるグリーンスクールは、建物が全て竹でできていたり、電気は全て再生可能エネルギーが使われていたりと、 “世界一エコな学校”として知られるインターナショナルスクール。英語を学びたいと考えていた私に、母が見つけてくれた学校でした。調べてみるとおもしろそうな学校だと分かり、迷わずに進学を決めました。環境問題に強い関心があってグリーンスクールバリを選んだわけではありませんでしたが、ここで過ごす中で、地球上で今何が起きているのか、また環境問題というのは自分たちの暮らしと密に関わり合っているということを学びました。
(写真)インドネシア・バリ島にあるグリーンスクールバリ。スクールの象徴でもある竹で建てられた校舎(写真)露木さんとクラスメートたち
―行動を起こすのに、大人になるまで待たなくてもいい
卒業後は帰国して日本の大学に入ったのですが「待ったなしの環境問題のことを早く周囲に伝えなくては!」という思いに駆られて休学。まずは知ってもらうことからと、全国の小学校から大学までを訪れ、気候変動など環境に関する講演を始めました。最初は自費で出向いていたこともあったのですが、ちょうど学校教育として、SDGsや環境問題を授業で取り上げるタイミングと重なったこともあり、環境について話してほしいという依頼をよくいただくようになりました。私が日本の若い世代に伝えたいのは「何か行動を起こすのに大人になるまで待たなくてもいい」ということ。私自身、グリーンスクールバリで同級生が環境問題へアクションを起こす姿に刺激を受けてきたこともあり、いつでも行動していいんだよということをこれからの社会を担っていく人たちに伝えたかったんです。その一心で全国を駆け巡り、気がつけば訪れた学校は220校以上にも及んでいました。
ー「SHIINA organic」は肌の弱い妹のためのコスメ作りから始まった
妹が市販の化粧品で肌荒れを起こしてしまったことがきっかけとなり、肌の弱い彼女が安心して使える化粧品を作りたいとグリーンスクールバリ在学中に研究を始めました。そのものづくりが派生していき、去年はクラウドファンディングを活用して100%自然由来のオーガニックリップの開発資金を集め、その後「オーガニック」「サスティナブル」「透明性」を追求したコスメブランド『SHIINA organic』をリリースしました。私の妹に限らず、リップを塗って唇が荒れてしまった経験がある人って結構多いと思うんです。自然派を謳う化粧品はたくさんありますが、自然由来の成分であれば誰でも使えるというわけではありません。むしろ自然界のものだからこそパワーが強すぎてしまうこともあります。特に唇は鼻に近いということもあって、匂いに敏感な人にとって香りはすごく気になるポイント。オーガニックの製品は石油由来の原材料が入っていないため酸化しやすいというデメリットがあり、その酸化特有の匂いを打ち消すために香料を使っていることもあるんです。だから『SHIINA organic』では、できる限り香りが強くない原材料を厳選しました。
(写真)グリーンスクールバリ在学中にコスメ作りの研究を始めた
(写真)露木さんが手がけるSHIINA organic
また、オーガニック化粧品は発色が良くないというイメージを払拭したくて、色にもこだわりました。石油由来の成分を使えばどんな色味でも作ることができますが、100%自然由来ということは自然界に存在する色しか使えません。コスメ業界では、リップをリリースするなら最低でも10色のラインアップを出すのが一般的だと言われましたが、『SHIINA organic』では4色を出すことが精一杯。自然界に存在する色だけを採用して、どこまで使いたいと思ってもらえるような色を作り出せるか。これもものすごく試行錯誤した点です。
ーものづくりをする人の責務は、求められている以上のことをやること
コスメって、使い切れないことを前提に買う人が多いですよね? だから使い切ることを前提としたサイズにしたかったんです。化粧品としては規格外の小さな容器になるのでロットが難しいのですが、工場の方々にも応援していただき今の形を実現することができました。また、容器は好きな色を詰め替えできるリフィル仕様にしました。商売として考えると、買い換える時は容器と中身を両方買っていただく方が採算は取りやすいのですが…。
そもそも、オーガニック化粧品って原価率がものすごく高いんです。私は「妹のために」というところからスタートしたこともあって原価率のことなどあまり考えていなかったのですが、実際に自分で作ってみて痛感しました。だから大きい会社はオーガニックコスメに手を出しにくいのだと思います。でも世の中には妹と同じように必要としている人がいる。だったら小さい規模でいいから私自身がやろうと思ったのです。そしてせっかくやるなら、みんながやらないことをやらないと意味がない。だからこそ、社会問題の解決につながるような製品にしたかったし、製造過程の透明性もすごく意識して、パッケージには、製品ができるまでの製造過程が見られる映像へのQRコードを印字しました。でも正直、私と消費者との思いにギャップがあるのでは、と感じることもあります。もしかすると消費者はそこまで詳細に原材料を知ることなど求めていないのかもしれない。だけど、求められている以上のことをやることが、ものづくりをする人の責務だとも思うんです。
ー目指すのは、環境活動家がいらない社会
私は自ら環境活動家になりたいと思ったことは一度もなくて、気がついたら活動家になっていたという感覚なんです。むしろ私が目指しているのは、環境活動家がいらない社会。今は講演活動にも区切りをつけて、次のステージについて考え始めました。ブランドとして商品を販売していますが、私がしたいことは“物を売ること”ではありません。ブランドとしてその先に何ができるのか、悩みの真っ只中にいます。そして、『SHIINA organic』としても私個人としても、まもなく訪れるであろう小さな転換期を楽しみにしているんです。
■ 露木しいな / 環境活動家・SHIINA organic代表
2001年横浜生まれ、中華街育ち。「世界一エコな学校」と言われるインドネシアの「Green School Bali」で高校3年間を過ごし、卒業。COP24(気候変動枠組条約締約国会議) in Poland、COP25 in Spainに参加。肌が弱かった妹のために「SHIINA organic」を立ち上げる。2019年9月、慶應義塾大学に入学。現在は、環境講演を全国の小中高学校に行うため、休学中。
instagram: @shiina.organic @shiina.co
HP:SHIINA organic公式サイト
Photo : Wataru Kitao(No.1) Masahiro Kai(No.3)Zissou(No.4)Shiina Tsuyuki(Others)
Text&Edit:Nao Katagiri
Interview:cumi